太平洋をヨットで単独横断中航行不能となり遭難。92日間の漂流体験ドキュメンタリー。九死に一生を得て生還を果たした人には、理屈では割り切れない何か不思議な力が作用するのだろう。諸井氏の必ず生きて家族の元へ還るという不屈の信念や、妻の夫に対する絶対的信頼は胸を打つものがある。捜索打切り後の5月、妻は不思議な夢を見る。6月7日に帰った、と話す夫の姿。「帰る」ではなく「帰った」と言ったという。そしてその言葉通りまさにその日救助の報が入るのである。奇跡は起こるものではなく呼び寄せるものなのかもしれない。余談ではあるが、諸井氏は漂流中ほとんど釣りをしていない。命の尊さを身をもって知るからこそ無益な殺生はしたくなかったようだ。大海原にありながらにしてなんと勿体ないと感じてしまう釣具店主である。